今年のお正月に新しいイヤホンを買った。MP3ウォークマンで聴く音が明らかに良くなって、嬉しい。
取り繕ってはいるが正直いつも疲れているしなにもかもが面倒くさくて本当は何もしたくないただ寝転がっていたい大雑把破れかぶれやっつけ人間の私だ。イヤホンの違いが分かるのか?格付上等人間じゃないよね、音が鳴ってるのが大体が分かれば良いでしょう。
いやいやだが実際ちょっと良いイヤホンは今までと比べて細かい音まで微細。音に輪郭があるのが感じられる。音の粒子の細かさがクリアーなのが物凄く気持ちが良い。
頭の中までが澄んで綺麗になる気がする。だいたい通勤の電車で使うんだけど差し込んでくる朝日の眩さが音とリンクして音が輝いてんのか光が奏でられてんのか、みたいな現実離れした美しい現象に恍惚!
それが毎日。
費用対効果が高い。
今日それだけ素晴らしい音の味わいを楽しんで、また次の日も、次の日も、劣化することなく美しさは再生され、身体に滲み重なっていく喜び。綺麗なアイテムを装備した自分の、アップしたスペックがもたらす恵み。その豊かさよ。
友人が基礎化粧品のグレードを自分のために上げてお手入れしてあげたらすごく気持ちが前向きになった。と言ってたことがあって、それと同じ現象じゃないかな。という気がする。
じゃあ何でもグレードを上げればええのか。っていうと、そうでもなくて、私とイヤホンの物語には「葛藤を経た」重みが、あった。イヤホンの格付けと自分の内面での自分格付け、その葛藤は案外深い。
エディオンのイヤホン売り場で品物はだいたいスリーランクに分かれていた。
松5000円 竹2000円 梅1000円
本当はその上に一万円超え機種もあったけど選択肢外だしケーブルタイプしか欲しくない。
だって当初の想定ではイヤホンの買い物は1000円の梅ランク一択。
100均のイヤホンでも可と思っていた。
だって元々ウォークマンの付属品イヤホンに不足を感じることなく10年間使ってきたのがこの数日見当たらず、聴きたいときに音楽を聴けないイライラが高じてわざわざ買いに来たけど絶対自分のどれかのバッグかコートのポケットのどっかにはあるはずだし、ポロッと「こんなとこから?」みたいなとこから出てくるまでの間に合わせなんだから。と。
ほんとは要らないものだ。って念を押していた。
しかしその売り場に陳列されてる松ランク5000円イヤホンの佇まいになにか引っかかる。
「5倍ランクのイヤホンで俺の音楽を聴いてみませんか?」
常田さんだった。
この2年、King Gnuにどっぷりどっぷり浸かり込んだあまりに私の中に根付いて育ったKing Gnu愛が光となって私の心の闇を照らし、闇に溶けていた私の心の中の常田さんの存在を浮かび上がらせ、そして言葉を発するまでになったのだ。
私の心の中の常田さんはバガボンド宮本武蔵の姿をした音楽侍で、超渋い&チャーミングな低い声で私を見つめて言う。「イヤホン、いい方にしてもらったらいい音で聴こえるっすよ」
きゃ〜〜〜〜〜っカッコいい!
想像の存在とはいえ、常田音楽侍カッコいい!
そして常田音楽侍の言わんとする事、めちゃわかる。どんだけこだわりまくって作られた音なんかっていうことファンだからわかってる。そりゃそうなの。良いイヤホンで聴きたい音楽なの。常田さんの音楽は!
でも、、、1000円 VS 5000円。。。
この抵抗感は何?罪悪感は何?
エディオンのイヤホン売り場に佇む一人の中高年女性は心の中の葛藤を見つめた。
心のなかに必死に抵抗する男がいる。
「もったいないでござる!お主のような音痴のダサ女が5000円もするイヤホンを使うなど高望みもいいところでござる!生意気でござる!身の程をわきまえぬ我儘な振る舞いとあらば拙者お主を成敗いたす。もはや切腹なされよ!」逆上してガンガンに頭煮沸している私の中のクソうんこ侍。
私がなにか素敵なものに手を伸ばそうとすると内面の抵抗勢力として罪悪感を駆り立ててくる影。キャラ立てして発言を聞いてみると大抵このクソうんこ侍が「生意気な女が憎い」と抜かしている。
ほんとうにうんこ。
このうんこ侍に抑圧されてきた私の人生。深く深く芯まで貫いて刺さった痛み苦しみ。罪悪感や怒りや被害者意識が渦巻くとき、その葛藤を避けようとして、そもそも自分の第一希望を望みから外して望まない。とか、存在感を消す。とか、関係者枠外にいる。とかいうことを無意識にしがちであった。
お前なんか100均のイヤホンで充分!
自分の中に自分を虐げる存在がいる。自分を抑圧してくる意識。うんこみたいな意識。
でも私は変わった。
以前ならそのうんこ侍に感情をぶん回されていたところが揺らがなくなった。
そういうクソうんこ侍が自分の中にいる事情もやむにやまれずあるのだ。と理解ができると、クソうんこ侍が哀しく哀れに見えてくる。
クソうんこ侍が成仏できるよう癒やしてやれるのは、クソうんこ侍の持ち主である自分しかいない。
昔、私の中で実の父とうんこ侍は被っていた。私の中でうんこ侍が切腹成敗切腹成敗血相変えて大騒ぎする根本には5000円のイヤホン買ったら父にしょーもないもんに高い金使いやがって。と怒られることへの怖れがあった。
今では、私にもいろいろあり、実の父にもいろいろあり、二者同様に内面のこだわりが抜けて、父が私に怒りで攻撃してくるということが一切無くなった。
父が私を怒らなくなった。という現実を受け入れるには時間と努力がいった。父を悪者にしておきたかった。ツミヲキセておきたかった。けど、本当は違うことを受け入れたら私の内面の対立構造は崩れて消えた。
5000円のイヤホン買うのを渋っているうんこ侍は、現実の父とは全く別の存在だった。現実の父はそんなことで怒らないし。
うんこ侍が喚き散らしていることは私の内面に残されたトラウマの残響でしかない。
空っぽの風みたいなうんこ侍の罵倒なんて全く怖くもなんともない。
5000円のイヤホンを買ったところで私を怒ってくる人なんか誰一人現実にはいない。
うんこ侍を作ったのは自分だった。というか、うんこ侍は自分だった。と納得した私は楽になった。
さて、それでもまだ渋っているうんこ侍をどうするか。う〜ん。だってねぇ。
1000円2000円5000円とある中で、5000円てやっぱり勇気いるんだけど。。。
「そんなこと言うて、お前きのうブックオフで読まへん中古本に6000円使うてたやないか」
町田康パンク本当のことしか言わない侍だ!
実は私は中2の9月に京大西部講堂でPUNKS NOT DIE というライブに友達と行って、そのアンダーグラウンドインディペンデント世界に雷に打たれたように衝撃を受け一切の価値観の頂点にパンク最上最高と刷り込まれ以降40年間信仰と言っても良いかもしれないパンクスピリットヘの憧れが芯にあって、これはパンクか、それ以外か。と万事において無意識のうちに選り分けを行う世界観で生きてきた。
で、町田町蔵町田康のことはパンクの生き様に取り組む本当のことを追求する人として尊敬している。
そして私の心の中の町蔵パンク侍が本当のことを言ってきた。
そうだ。町蔵が言う通りや。ブックオフで積読本に6000円使うことには抵抗感ゼロって何なん。。。
本は知で、音楽は官能で、知は偉いけど官能は許しまへん。てこと?
音楽が大好きなのに楽器できない歌も下手くそ音痴コンプレックス。全然見かけがパンクでもロックでもないダサ女コンプレックス?
そうやな〜。何かしら音楽に対する引け目。コンプレックスがあるんやんな〜。
エディオンのイヤホン売り場で内的対話が続く。
なんとなく、私の中の七人の侍というタイトルにしてしまったし、自分の中の侍を一個一個検討すればするほど、辛いものに肉薄してしまうし、人に公開するようなことじゃないことを辛気臭く長々しい文章にしていることの異常さもしんどいし、もうそろそろ締めくくりたいんだけど。
とそこにスネ夫侍
「金はある!だってパパがお年玉くれたもん!」
そうなのである。実の父といい、夫といい、身近な男性が私に親切になった。
わたしは夫からお正月のお小遣いを貰っていたのだ。
こうなったら5000円イヤホンに気持ちは傾く。
え〜〜〜〜!ホンマに?
だって1000円で買うつもりで来たんやけど〜?
粘るうんこ侍。
そこにスパダリ侍が降臨。
それをキアヌ・リーブスとしよう。
男性性と女性性について勉強してみたとき、自分の中に最高の男性性を具体的に創造するならその姿は誰に該当するだろう?何日も考えてみた。う〜ん。それは。。。キアヌ・リーブスなんじゃないかな?
私が意識の中で創造したこのスーパーダーリンはこの世で一番変わることのない愛を私にくれるし、3度の飯よりあなたがいいのだし、あなたとこのままオサラバするよか死ぬのがいい(藤井風くん存在が宝物侍)という。
自分の中の究極理想の男性性としてこのスパダリが私を溺愛。というイメージを持ってみる。自動的にニヤける。
で、スパダリ侍は100%肯定しかしないし、5000円のイヤホンをする私をI love youだということであった。
I love you sweet honey, I know you really loves music.
だよねえ。
だよねえ。
じゃあ、分かった!
買います。
5000円のイヤホン、買います。
「あると思います!」
背中を押してくれたのは、昔エロ詩吟で有名になった天津木村侍だった。
あると思います侍、いい仕事するわぁ。
それでエディオンから実家に帰って実家のこたつでSONYのオシャレな箱からイヤホンを出して高級感を味わった。
付属品のイヤホンがそろばんの玉みたいだとしたら、5000円の方は立体的で、昔、小さなヒョウタンの中を除いたら中に仏さんの細密画が入ってる根付みたいなものがあったけど、あれに似ていて、形状もヒョウタンぽいし、中に何やら有り難いっぽいミクロコスモスを内包してそうなところも共通。
そして今までいちいちコードを解くのに一苦労してたけど(Bluetoothじゃない派)、今度のはコードがシリコンぽくてスルッとサラッと解けるし、右のイヤホンには赤でRの表示があってどっちが右かすぐ分かる。
至れり尽くせり!
そして、ウォークマンに差して、
King GnuのStardomを聴きました。
最高!
そしたら父がやってきて
「それなんやぁ?テレビの音が大きい聞こえるようになるもんか?」と言いました。
「う〜〜〜〜〜〜ん。近いと言えなくもない。ていうか、これイヤホンやし。イヤホン知ってるやろ?」
年寄りがなんかちょっと違うことを言ったり、普段の不便が透けて見えるあったらいいなを言ったりするのが大好物の私は、父がいい感じに年寄り発言するのを平和な気持ちで聞いた。
うんこ侍成仏。